真空管の歴史から見るとまず整流作用の2極管から始まり、増幅作用を持った3極管ができ、その改良型として、5極管(4極管)が生まれたとされています。
     
しかし3極管から5極管への移行は改良などという生易しいものではなく、「3極管を丸呑みにして変身を遂げた怪物が、ある日いきなり出現した。」と表現した方が正しいのです。

5極管の最大の特徴は、プレート電圧が低くてもプレート電流を大量に流せる点で、3極管では真似出来ない優れた電圧利用率を生み出しています。


         


ではなぜ低いプレート電圧で多くの電流を流せるのかと言えば、そんな時でも丸呑みにされた3極管が自分に必要な高いプレート電圧を確保しているからです。

そうして、その高いプレート電圧によりカソードから電流を引き出し、5極管のプレートに手渡しているという訳です。では丸呑みにされた3極管のプレートはどこにあるのでしょうか。

これこそが通常第2グリッドと呼ばれる物で、5極管のプレート電流はここが決めています。

普通第1グリッドが0Vの時、プレート電流が最大になりますが、下の第1グリッド0V時のグラフを見ても、第2グリッド電圧が最大プレート電流を決定しているとわかります。


   


つまり丸呑みにされながらも死に絶える事はなく、そのキャラクターはしっかり保っているのですが、通常の5極管接続において第2グリッド電圧は外部から固定され、勝手に動くことは出来ません。

逆に3極管のプレート電圧つまり第2グリッド電圧を変化させればプレート電流をコントロールすることも出来、第2の入力端子としても活用することが出来るわけです。


  


このことを利用した回路に送信機では第2グリッド変調というものがあり、オーディオではクオード社の位相反転回路付き初段回路が有名です。

ところで第2グリッドをプレートに接続すると、通常の5極管接続のように固定されていないので、かつてのプレートであった時の動作が復活し始めます。

ちょうど怪物に飲み込まれた悟空が腹の中であばれだし、怪物を意のままに動かすかのような事が起こるのです。


  


では、この様子を実際の真空管の計測から確かめてみましょう。まずはKT88のなかに封じ込められた3極管の特性を計測します。

下のグラフは、よくある3極管特性のように見えますがすが、実際はKT88のプレートには何もつなげずに計測した、カソードと第1グリッドと第2グリッドによる「呑み込まれた3極管」の特性を示しています。

うっとうしいことを言うと、g2による3極管特性のネット上画像は、世界的にあまり例がないかも知れません。・・・自慢でした。すいません。


             


それはさておき、このままでは縦軸の電流値が小さいので、3極管接続のグラフと比較しやすいよう、1目盛を5mAにして計測し直したカーブが下の図となります。


             


そしてKT88による本来の3極管接続による特性が下の図です。


             


ここで上の2枚のグラフを重ねてみましょう


             


こうすると2つのカーブがぴったり重なり、3極管接続の特性が、実は第2グリッドによる3極管特性であったことがわかります。

このように3極管接続とは第2グリッドによる3極管が、5極管の持つプレート損失を、あたかも自分の物のように乗っ取り、自身のキャラクターとして復活させた動作なのです。

では何故プレートより手前にある第2グリッドに、プレートよりも大量の電流が集中して流れないのでしょうか。その理由はおそらく直列電極電界効果の存在と、その中にある電極の面積の違いによるものだと予測できます。


         


SLVCCCの時も感じましたが、真空管の内部において同電位の電極は、あたかも直列グリッド電界のように機能する性質があるらしく、第2グリッドとプレートは共有電極として同化しています。


そこに大量の電子が送り込まれると、その面積に応じて電流が流れるわけです。このことを一番わかりやすく証明しているのが3極管の2極管接続であり、これによる整流時、電源電流が3極管のグリッドへ大量に流れ込むことはなく、か弱い第1グリッドでさえ破壊されることはありません。

つまり2極管接続や3極管接続はもちろん、SLVCCCやスペースチャージ接続なども全て、この直列電極電界効果により、それぞれの特性が発揮出来ているわけで、特にスクリーングリッドにおいて5極管接続と3極管接続では、その動作システムが全く異なるという点を認識する必要があります。


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新しいコトバ「直列電極電界効果」